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高松高等裁判所 昭和35年(ラ)32号 決定

抗告人 金住勅美

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

一、本件抗告の理由は別紙記載のとおりであつて、これを要するに、本件の競売申立人である庄野義治と債務者及び物件所有者である抗告人との間で和解並びに競売申立取下の合意が成立したと主張するのである。

しかし、右の和解はどのような内容のものか明らかでない。また競売申立人と債務者、物件所有者との間の競売申立を取り下げる合意は、それが所論のとおりに成立したものとしても、競売法第二十三条の趣旨によつて最高価競買申込人の権利を害することができないものであるから、競落許可決定に対する抗告の適法な理由とすることができない。したがつて所論は採用できない。

二、しかしながら職権を以て記録により調査をするのに、本件の競売期日は三回開かれたが、(イ)そのうちの第一回である昭和三十四年十月十三日午前十時の期日の公告は原裁判所の掲示板及び不動産所在地である阿南市の掲示板に同年九月二十九日に掲示されたこと、(ロ)右期日において競買申込をする者がなかつたため原裁判所は当初の最低競売価額金二十七万七百二十五円を低減して金二十三万円とし、第二回である同年十二月十六日午前十時の期日の公告にその旨記載されて阿南市の掲示板に同年同月一日掲示されたこと(原裁判所の掲示板に掲示されたかどうかは記録上明らかでない。)そして、(ハ)該期日にも競買申込をする者がなかつたため原裁判所は最低競売価額を更に金十九万円に低減し、第三回の昭和三十五年三月二十一日午前十時の期日の公告にその旨記載されたが、この公告は原裁判所の掲示板及び阿南市の掲示板に同年三月七日に掲示されたこと、そしてこの期日に前川義行が競買申込をしたので、原裁判所は翌三月二十二日に同人に対し競落許可決定を言い渡したことがそれぞれ認められる。

ところで、競売法第三十条によつて同法第三章の競売に準用される民事訴訟法第六百五十九条第一項の「競売期日は公告の日より少なくとも十四日の後たるべし」との規定は、なるべく多くの人に競売期日を知らせて競売ができるだけ相当な価格で行われることを期するために公告の日と競売期日との間に少なくとも十四日の期間をおくことを必要とする趣旨を定めたもので、右第一回の競売期日も本件競落の基礎となつた第三回の競売期日もともにその公告との間にこの法定の期間をおかなかつたものであるから、原裁判所はこれらの競売期日に競売を実施させることができず、更に適法な公告を経て執行吏に競売をさせるべきであつたのであり、右両期日における競売手続はまずこの点で無効といわなければならない。(なお第二回の競売期日の公告についても前記のように適法な掲示方法がとられたかどうか記録上明らかでなく、したがつて競売期日の公告の方法に関する法の規定ないし公告と競売期日との間におくべき期間に関する前記の規定が遵守されたとは断じえない。)また、右のように第一回の競売期日の実施が違法であれば、同期日に競買申込をする者がないからといつて、競売法第三十一条、民事訴訟法第六百七十条によつては最低競売価額を低減することが許されず、本件ではまず当初の最低競売価額による競売を適法に実施することを必要としたというべきであるが、前記第二回の競売期日の公告も本件競落の基礎となつた第三回の競売期日の公告もともにこの適法な最低競売価額を記載しなかつたものであるから、原裁判所はこの点についても更に適法な公告を経て執行吏に競売をさせるべきであつたといわなければならない。以上のとおりで、本件競落許可決定の基礎となつた前記の第三回の競売期日の手続には競売法第三十二条第二項によつて同法第三章の競売に準用される民事訴訟法第六百七十二条第四号(第六百五十八条第六号)、第六号所定の違法があり、したがつて本件競落許可決定もまた違法であるから取消を免れない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 谷弓雄 橘盛行 山下顕次)

抗告の趣旨

徳島地方裁判所阿南支部が昭和三四年(ケ)第三八号債権者被抗告人庄野義治債務者金住勅美間の競売事件に於て、阿南市津乃峰町東分百壱番ノ壱宅地七拾七坪参合五勺に対し昭和三十五年三月二十二日為したる競落許可決定は之を取消す

との決定を求める

理由

債権者は債務者(抗告人)に対する抵当権債権元金参拾万円に基き徳島地方裁判所阿南支部へ抵当物件の競売申立を為し同裁判所は昭和三四年(メ)第三八号事件として事件進行中昭和三十五年三月二十一日が前記物件の競売期日であつたが抗告人は債権者に相談して一旦和解成立し相手方は競売申立の取下を為す約束であつたにも拘らず相手方は其実行をしないから抗告人は相手方を詰責中競売は進行し遂に相手方の競落する処となつた其翌廿二日に同裁判所は競落許可決定をしたが上記のような次第であるから抗告人は右競落許可決定は不服であるから即時抗告をする次第である。

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